YUMIKO SAKUMA

今回は、佐久間裕美子さんに
新刊『My Little New York Times』の
刊行記念スペシャルトークショーのために
PHAETONにお越しいただきました。

 


1)佐久間さんの自己紹介

改めまして、佐久間さんに自己紹介をお願いいたします。

 

佐久間さん


佐久間裕美子と申します。ニューヨークで住んでライター、文筆業をしています。

 

P


もともと文章を職業にしたいと思ってこの職業になられたのでしょうか?

 

佐久間さん


そうですね。自分がどういう風に社会でやっていくかを考えた時に、他に出来ることが思いつかなかった。文章を書くってことだけは、なんだか出来るような気がしたんですよね。そうやってチョロチョロ書き始めたら、誰かが褒めてくれたりとか。それでちょっと調子に乗って笑。それをやり続けていたら、あっという間に20年経っちゃったっていう感じですね。

 

 

 

2)佐久間さんに聞くインタビューのコツ

インタビューのプロにインタビューをするというジレンマがあるので、数々の著名人へインタビューをしてこられた佐久間さんに思い切ってインタビューのコツをお聞きしたいのですが。

 

佐久間さん


どうなんですかね〜。インタビューってされる方も緊張するじゃないですか。それに気が付いた時にすごく楽になった瞬間があって。すごく有名な人でも、素晴らしい作品を作って世の中に出している人でも、やっぱり同じ人間だから、幼少時代があって、いろんな苦労があって、自分の表現方法にたどり着いたというところでは皆一緒なんだって思っていて。だから子供時代のことを聞いたりしますね。「どんな子供でしたか?」って。どうしてその職業についたかとか、そんな感じで。私にとっては、フラフラして色んなところで会うおばちゃんとかおじちゃんとか、有名な人も、すごく有名な人も、割と同じというか。そういうつもりでやっています。

 

P


聞かれる側も緊張するというお話ですが、質問したいことを畏まって聞くよりも、割とフラットに聞けた方がいいのでしょうか?

佐久間さん


そうですね、警戒を解いてもらうことが結構大切で。特に欧米の人は「ジャーナリストが来る」っていうことに対して構える人が多いから、どこまで「佐久間裕美子っていう人が来た」って思ってもらえるかっていうのを大切にしているつもりです。

 

P


ここPHAETONで昨年、早坂さんとトークショーをしていただいた時に、佐久間さんの子供の頃の話もたくさんしていただきましたが、そういう迫った質問というのは自然な流れでもっていくのでしょうか?それとも、ずばり質問をぶつける感じでしょうか?

 

佐久間さん


とりあえず、雑談。時間が許せば雑談から入りますね。聞く前にその日の小ネタみたいなことを話したりとか。

P


「インタビューします」っていう感じで構えるよりも、普通のトークのような感じで?

 

佐久間さん


そうですね。私は結構雑談っぽく、質問もあまり決め込まないようにしているし、一応「これ聞きたいな」っていうのはあるんですけど、途中でちょっと雰囲気が変わったりした時に脱線もできるように、っていう気持ちでいかないと・・なんかこう決め込んでしまうと、結果がすごくつまらないことになっちゃったりするんですよね。

 

P


Aという質問に対して、BやCという答えが聞き出せる可能性があるのにAという答えだけしか聞けなくなってしまうわけですね。

 

佐久間さん


そうそう。ただ、Aの答えに、気になるところがあったら戻ったりはします。「ちょっと、それどういう意味?」といった感じで。後で内容を聞き返した時につまらなかったり、「なんでこれもっと突っ込まなかったんだ」とか、「なんでこれ聞かなかったんだろう」っていう後悔は今でも時々あるので。

 

P


これは聞くべきことでは無いのかもしれませんが、「聞き漏らしたな」ということがあった場合に、あとで電話などでもう一度聞き返したりするのでしょうか?

 

佐久間さん


します。もちろんすごく有名な方とかだとアクセスがなかったりするんだけど、気になるところはすぐ。また戻って聞いたりします。

P


ありがとうございます。今回のインタビューも、
聞き漏らした場合はよろしくお願いいたします。

 

佐久間さん


いえいえ、こちらこそ笑。

 

 

 

3)自分の居場所の見つけ方

佐久間さんは自分の居場所を見つけるためにアメリカへ渡られたそうですが、自分らしく生きる、ということに関して佐久間さんの座右の銘というか、モットーのようなものはあるでしょうか?

 

佐久間さん


モットーっていうか、すごい好きな言葉としては「This is who I am」っていう言葉や「This is who you are」というのがあるんですけど、その、ニューヨークに教えてもらったことの大きな一つは、「そのままでいい」っていうこと。

普通に「そのままでいい」っていうと、何か怠慢に聞こえるんだけど、私は若い頃を自信がなく過ごしてきたから、特にアメリカに来たばかりのころは自信がなかったし、でも何か「あなたのそこが良いよね」って言ってくれる人がいて、それって自分ではよくわからないことだったりするんだけど、そう言ってもらえたところを、「褒められた」っていうことを大切にして、それを磨いていくっていうか。

結局「This is who I am」っていうのは、「自分にはこういう生き方しかできない」っていう意味に思うんですよね。私は色々会社員とかもやってみたけど、できなかった。できる人もいるけど、私にはできなかったから、自分以外の何かになるんじゃなくて、「自分の道を追求する」っていうことを自然に教えてもらった気がします。

P


なりたい何かになるというよりも、自分の「褒められたこと」を集めて一つの形にしていく感じなんですね。

 

佐久間さん


そうそう。「絶対これが好き」みたいなものを追求した先には、道が広がっていると思っていて。たまたま私は色んなものが好きすぎて、一番好きなのは多分、人の話を聞いたり、人と会ったりとか、見たことのない風景を探しに行ったりとか、そういうことだから、ひたすらやっていたら何か職業になったというか、何か人生ってそういうものなのかなって、今45歳の自分は思うんですけど、また変わるかもしれません。

 

P


20年続けてきてもまだ変わる可能性があると?

 

佐久間さん


あると思います。まだ毎日発見がたくさんあって、もっとこうなりたいなとか、私にはここが足りない、みたいなのはいっぱいある。でもそれはやっぱり、やっている人が輝いている時に、例えば走るとか。私は走ったことがあまりないので。走っている人の姿ってすごく美しいなと思った時に、やっぱり自分もトライしてみようかなとか。進化し続けるっていうのが理想かな。

 

 

 

4)佐久間さんに聞くファッション

男性誌でファッションやカルチャーについて書かれていた時代があるとお見かけしました。ファッションとはある意味では自分らしさを表現するひとつのツールだと思いますが、最近のファッションについて思う所があればお聞きできればと。

 

 

佐久間さん


私はちゃんとファッションを勉強したわけじゃないから、本当に自分が好きな洋服を買うとか、着るとかっていうことだけで。でも、面白いって思うのは、やっぱり今までに見たことのないものだったり、今までに見たことのないやり方だったりとか。

あと「人となり」が出ているものだったりとか、そういうものが好きなんだけど、やっぱり(世の中では)どうしてもアレがイケてるとか、話題になっているとか、そういうのがモチベーションになりがちで。そうするとやっぱりどうしてもファッションというものの商業的な構造上、何か同じように見えてしまうっていう。

特に人種がアジア人に偏っている国においては、やっぱり皆が同じ方向を向きがちだなと思っていて。やっぱりそれは自分で見つけるのが一番私にとっては服の楽しみだから。私は少し周りにファッションをやっている人が多かったから、自分の感覚を一番信用して、もっと自分を自由表現してもいいんじゃないかなと思います。でもね、最近はすごく自由に表現している人が増えてきている気がするんですよ。

 

P


佐久間さんは色んなところに行って、海外のマーケットなども回られていますが、その「自分を形作る」ために服を選んでいる、っていう感覚はあるのでしょうか?

佐久間さんが休暇で行ったBangkokへの旅をまとめたzine『クイーンズ・オブ・バンコク/キングス・オブ・バンコク』

佐久間さん


私は本当に女性の服が似合わなくて、似合うものが少ないから、似合うものを探していくと男物が多かったっていうのがあって、それをやっていたら何となくオリジナリティがあるかのような風になっちゃったっていう笑。

 

P


逆に敢えて女性の服に踏み込んでみたりすることもありますか?

 

佐久間さん


ちょっと挑戦したりとかはするんですけどね〜。

 

P


トークショーの時に早坂さんに結構踏み込んで質問されていたかと思いますが、その辺はやはり他の方に影響を受ける感じでしょうか?

 

佐久間さん


やっぱりこう、悔しいけれども高校生の時とかに、男の子たちがすごく詳しくて、単純に張り合いたいっていうか、リスペクトされたいみたいな笑。くだらないことだったと思うんですけど。

でも何か着た時に、似合ってないっていうのはすぐわかるから、私にとっては着た時に心地いいっていうのが一番大切で。いつでも走り出したり、地べたに座ったりしても大丈夫みたいな。それが好きでマーケットに見に行ったり。

ヴィンテージが好きなのも、やっぱり人と同じっていうのが嫌だから、そのシーズンに出ているものは着たくないみたいなとこもあって笑。すごくくだらない張り合い根性が最初のスタートだったんだけど、でもそれをやっているうちに自分のスタイルが判ってきたのかなって思います。

 

P


「自分らしさ」として落ち着く服を探していった結果そういうファッションになっていったわけですね。

 

佐久間さん


そうですね、まさに。そして旅が多いから。WOMENSの服って合わせが結構難しかったりするから、本当にシャツにパンツにっていうのが、荷物を少なくするコツだったりとか笑。そういうプラクティカルなところもあります。

 

P


それは現地調達する、ということではなく?

 

佐久間さん


現地調達もしたりしなかったりですが、基本的には旅をしている時にしか買い物はしないですね。洋服屋さんに行って、わざわざ旅の準備のために買い物に出かけたりとかはしないです。

 

P


なるほど。「旅にでるぞ」と構えすぎないわけですね。インタビューのコツの時にお聞きした心構えと同じような感覚ですね。

 

佐久間さん


そうですね。あとやっぱり、服を作っている人にインタビューしたい時は、今までに見たことがない服や、やり方をしている人が好きだから、それでその人と話をしていると、やっぱり欲しくなったりとか。(服を買う)理由を求めてしまうんですよね。

ものを買うってある意味すごく簡単なことじゃないですか。お金を持っていたら買えるから。でもやっぱりこういう時代だから、捨ててしまうようなものは買いたくないし、ちゃんとずっと大切にできるものを買いたい。

自分が(物を)大切にできる理由が、その人に話を聞いたことだったり、そこに訪れたことだったり。「自分の思い出に紐づく」じゃないですか。自分の思い出っていうのは、自分の一部、自分のレイヤーになっていくと思うから、それぐらいしないと私はものを大切にできないっていうところもあったりとか。

 

P


佐久間さんの今回の本で「大切なものをどれだけ長く使っているか」というものを題材にしてお仕事をされている方が登場されていましたが、やはりそういう方と出会うことで「大切に使おう」というものが増えたりするんでしょうか?

 

佐久間さん


しますね〜。私が自分の道を辿ってきたように、私が話を聞く人たちにも歴史があって、そういう人たちがどういう風にモノに向き合っているか、聞いて勉強になるし。

坂矢さんもヴィンテージがお好きですけども、自分より前に生まれて、作られて、願わくば私が死んでからも誰かに大切にされて欲しいっていうのは、気持ちとしては「管理人」っていうか。

 

P


自分のもの、というよりも「今は自分の手元に来ているだけ」という感覚なんですね。

 

佐久間さん


そうですね。だから私が持っているものでも、私よりも似合う人がいたらプレゼントしちゃったりするし。

 

P


そこに関しては自分よりも「モノ」が主体で考えられているんですね。

 

佐久間さん


そうそう、若干「擬人化」している部分もあると思う笑。

 

P


似合う人のところへ行ってあげなさい、というような。

 

佐久間さん


そうですね。

 

 

 

 

5)PHAETONで面白いと思うことは?

ヒップな生活革命で様々なライフスタイルに迫られた佐久間さんですが、PHAETON で何か面白いな、と感じるものはあるでしょうか?

 

佐久間さん


私が沢山のお店を訪ねる中で、やっぱり面白いのって「これ誰がやってるの?」っていうところなんですよね。坂矢さんという人が何を考えているのかっていうことが、このお店では常に更新されている。だからやっぱり来たいと思うし、だからこの土地とほとんどコネクションを持たない私がトークショーをやって、人が来てくれるっていうのはやっぱり店主が信用されているってことなんですよね。

それで、お店ってモノを売っているところだけど、生きていると思っていて、やっている人のその時考えていることが現れるじゃないですか。だからその更新のされ方というか、進化する感じが生命を吹き込んでいるようだなと思います。

 

12/15にPHAETONのウィメンズストアLetoで開催した「佐久間裕美子 × 幅允孝|My Little New York Times 刊行記念トークショー」。満員御礼。

 

イベント当日の様子を振り返った佐久間さんの記事(日記)《sakumag》

 

6)一年を振り返って

新刊「My Little New York Times」のあらすじから、前作ピンヒールははかないからフルスロットルの毎日を送ってこられたと感じます。佐久間さんにとってこの一年を振り返って見えたことはあるでしょうか?

P


先ほどの進化の話もありますが、毎日を更新しつづけられてこの一年で何か見えたことなどあるでしょうか?

佐久間さん


やっぱり、社会に対するおかしいなと思うこととか、政治とか、世の中の動きとかに対する自分の気持ちもこの本には書いてあるんだけど、自分が一年間、より健やかに歳をとり、どこまでヘルシーに自分のやりたいことを追求し続けることができるだろうかっていうのが一つのテーマとしてあって。

肉をやめてみたりとか、色んな人生の自分のトライアル(の集積)でもあると思っています。やっぱり40年以上生きていると色んなところに不具合が起きたりとか、そういうことで学んだことを、自分のものの付き合い方もそうなんですけど、本当に私はまだ学習しているんだなあと、学習することがいっぱいあるなあっていう。そんな感じです。

 

 

 

7)2度目のフェートン

ご縁があり2度目のトークショーですが、佐久間さんから見て前回とフェートンに何か違いを感じるところはあるでしょうか?

 

2017年10/7にPHAETONで開催した佐久間さんの「ピンヒールははかない」(幻冬舎)刊行記念のスペシャルトークショー。 対談相手のスペシャルゲストにメイクアップアーティスト
早坂香須子さんをお迎えしました。トークショーの内容はこちらからご覧いただけます

 

佐久間さん


いやもう全然違いますよね。この間来た時とね。
前回来た時どうだったっけ?っていうぐらい。

 

P


全く違いますね。

 

佐久間さん


全く違いますよね、それで、それが多分私が坂矢さんの好きなところで、同じにしてたらきっと飽きちゃうだろうし、常にこう、面白いものを見つけてくる貪欲な気持ちっていうか、それは一つの共通項としてあって。私も多分同じことばかりやっていたらすぐに飽きると思うんですよ。

アーティストの杉本博司さんが、「人生は壮大な暇つぶしである」と。人生に大体80年与えられたとして、常に面白いことを考え続けなかったら、どうなっちゃうんだろうっていう恐怖感が私にもあるんですけど、いつ人が来ても、いつ会っても違うことを考えているっていうのは、人間の進化の仕方としてはすごくいいと思っていて、羨ましい。学ぶことがいっぱい。

P


それは色んな人に興味に持って話を聞きにいくこととやっぱりリンクしているんでしょうか。

 

佐久間さん


リンクしていると思う。私は「書いて共有する」ってことが喜び。それで、坂矢さんにとっては何なのかなあ。どうなんでしょうね?聞いてみようと思いますけど笑。でも多分人も、モノが好きなように好きなんだろうと思うし、何か知的好奇心というか、貪欲さが店に現れていると思う。

 

P


ありがとうございます。

 

8)新刊ができた経緯

最後になりますが、佐久間さんの新刊のあらすじに、トランプ大統領の話が出てきて、それがきっかけで日記を書いてみようと思ったという話がありましたが、ある意味でトランプ大統領のおかげでこの本ができたんだと思うと、私たちからすればラッキーなのではないか、と思うわけですけれども。

 

佐久間さん


それはねえ・・そうなんですよ。そうなんですよというか、世界にとっては恐ろしい酷いことが起こったと思っているんですけど、でもそれは必要悪だったかもしれなくて。

本当は私たちが感じていたほど平和でもなかったし、そんなに楽観していい状態でもなかったのに、やっぱりなんとなく上手くいっているというような幻想を抱いてしまっていた、という意味では。今こういう状況になって、私だけでなくアーティストとか、音楽家とか、みんなやっぱり表現に燃えている。

強い怒りとかフラストレーションみたいなものが新しい作品を増やしていくわけですよね。とはいえ、アートのためには良かったって言うにはちょっと状況は酷過ぎるかなって思うんですけど、でもまあ、社会が前に進んでいくためには、こういうことがあって仕方がない・・とは言いたくないけど、だからこそおかしいことには声をあげないといけない。

やっぱり実は色んなところに歪みがあったんだよねっていうことをみんなが認識するための、フェーズなのかなと思います。

 

P


きっかけがそこに色々と生まれたわけですね。
ありがとうございました。

 

 

佐久間裕美子(さくまゆみこ)|ライター

ニューヨーク在住ライター。1996年に渡米し、1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。政治家、ミュージシャン、作家、デザイナー、アーティストなど、幅広いジャンルにわたり多数の著名人・クリエーターにインタビューしている。著書に「ピンヒールははかない」(幻冬舎)、「ヒップな生活革命」(朝日出版社)、翻訳書に「世界を動かすプレゼン力」(NHK出版)、「テロリストの息子」(朝日出版社)。2013〜2014年にはiPAD マガジンPERSICOPE 主宰。慶應大学卒業。イェール大学修士号を取得。 https://www.sakumag.com