Mariko Tsuchiyama

 

Mariko Tsuchiyama  |  2021

Interview

真珠のジュエリーとルーツ


 

 

独創的な美しいデザインの真珠のジュエリーの数々。やはり真珠をメインに作られている理由があるのでしょうか?

M:真珠はまん丸に近い形が多いので、グラフィック的に好きなんです。丸三角四角というものをアレンジしてデザインしたものがいいなと。自分がそういう形状を見るのも好きで、グラフィカルな形に惹かれて作り始めました。

 

 

生まれ故郷が長崎なので、真珠の養殖産業が発展していたので、馴染みがあったというのがきっかけというかルーツですね。

P:それはやはり、真珠を触り続けていくうちに思いが深まったりというのがあったり?

M:そうですね。奥が深いですし、真珠の育ったバックグラウンドを聞くと、すごく生産者の人の思いが入っていたり、手間がかかっていたり。例えば10個養殖したとして、2個ぐらいしかできないといった希少性というか、偶然や条件が重ならないとできないってうのも面白いなと思って。

 

 

いびつなパールの魅力


P:自然な形のパールを使われた作品が多いですが、その辺も今のお話のような体験の中で、形状を整えたものよりも自然な形のままの方が好きになっていったという感じでしょうか?

M:そうですね、それも同じというか、自然の摂理で出来上がったもの、それを狙って作ったのではなくて、自然が作ったものという印象が強いので、バロックっていういびつなパールは。唯一無二で同じ形のものがないので。まん丸が好きという方も多いので、というか今まで日本も海外もまん丸を重視する方が多かったので、いびつな形のパールははじかれてしまうんですね。そのはじかれたものに惹かれてしまう、というのもありますね。

 


イギリスで真珠のジュエリーを作る理由


P:真珠の産地としては日本の養殖が最初で、それまでは貴族や王室の人しか手にすることができないくらい数がなかった真珠が、日本の養殖をきっかけに世界中にパールのジュエリーが広まったという歴史がありますが、そんな中で、マリコさんが今あえてイギリスでパールのジュエリーを作っているということに何か意味を感じられたりすることはあるでしょうか?真珠を最初に見出して広めた国の人が、イギリスで真珠のジュエリーを作っていることに意味があるんじゃないかと。

M:意味?意味は・・ちょっとわからないですけど笑

でも私が真珠の商品をイギリス人に見せると、彼らは知識がゼロの人がほとんどなので、伝えたいという思いもありますし、やっぱり同じようにパールを使っている人はあんまりデザイナーでもいないかな、という意味で、あんまりコンペティティブ(競争的)でもないし、マイペースに作れる気がします。

P:ライバルといいますか、同じジャンルの人がそんなにいない分野なんでしょうか?

M:いないですね。いるのかもしれないけれども、すごくコンサバティブなブランドだと思います。デザインとかも、わりとクラシックな。だからデザイナーズというよりも、もうちょっとマニュファクチュアで、外国で作って、という方が多いと思います。

皇室などが身に着けるので、エリザベス女王とか。そういうところに影響を受ける層の人はいると思うので、マーケットはあると思うんですけど、そこは私とは違うと思います。もっとユニークというか。

 

 

 

 

独創的な新しいデザイン


P:金属の細工も全てご自身でされているとお聞きしましたが、特殊なカーブだったり、あまり見ないユニークなデザインが多いのは、そういう意味では敢えてやっていらっしゃるんでしょうか。

そうそう、コンサバティブなイメージを覆したいのと、あとは私自身がカジュアルに着けたいので、いかにカジュアルになるかという。今までのイメージとのギャップを出していきたい。身につけやすいものしたいですね。今までのものはゴテッとしていたんですが、その重みをとって軽くしたいというか。いわゆるファインジュエリーで、高年配の方が着けるものではなくて、若い世代の方にも使って欲しいし、やっぱりそのぐらいのポテンシャルはあるというか、若い人にも好きになってもらえるものだと思うので。そこを意識しています。

 

 

真珠選びの美学


坂:真珠も全てご自身で1粒ずつ選ばれているそうですが、その真珠選びの美学・・こだわりはありますか?

ありますね。バロックパールと言って、形がいびつなもので質が良いものは実際に見ないと。微妙な「テリ」がわからないんです。テリ(照り)というのは、真珠の層のレイヤードによって出来上がる艶のようなものですね。ダイヤのように真珠はランク付がないので・・

一同:ないんですか?

M:そうなんです。花珠(はなだま)というのが上級とは言われていますが、その厳格な定義もないので、出す側が花珠と言ってしまえばそれまでなので。

坂:なるほど・・国際基準みたいなものはないんですね。

M:自分でA+みたいにランク付をしたように言う人はいますが、基準はないですね。

P:ほとんどセンスと目利きみたいなものですね。

M:そうですね、あとはそういうものをちゃんと供給してくれる人との付き合いですね。それがないと失敗しちゃうんですね。でもまあ、物を見ればわかるから、私は2社・3社ぐらいしか取引はしていないですね。

坂:直感ですか?それとも吟味して選びますか?

M:直感。直感です。パッと見てわかります。

坂:言葉にすると難しいと思うんですが、良い真珠の定義というのはありますか?

M:私のですか?一般的な基準じゃなくて?

坂:はい。

M:自分が選ぶのはバロックで、わりとダイナミックさを感じるようなもの。たとえば丸だけど何かオーラが出ているし、可愛く収まっていない感じのもの。一方で、小さいものも選びますけど、やっぱり小さいながらも生命力があるというか。

 

 

坂:小さい真珠は、ここで成長が止まったものなんですか?

M:止まってるんです。小さい核を入れてるのかな。貝をもっと開けずに放っておけば大きくなるのかもしれないですけど、あんまり綺麗じゃなくなるのかな。

坂:こういう種類のもの、このサイズで止めるって決まっているんですかね。でもこれって、核を入れて真珠ができて開けるときって、貝は死んでしまうわけですよね?

M:貝の肉を切って取り出す感じですね。結構肉があります。蛤のような感じかな。

P:貝殻と真珠が一体化しているわけではないんですね?

M:こう貝の肉の中にうまっているような感じですね。肉をきらないと取れないので、ポロッと取れるわけではないですね。開けるまではわからない。だから取れるまで続ける地道な作業ですね。

坂:そういえば、貝に真珠がついていたものを昔たくさん持っていたんですよ。

P:ありましたね。PHAETONに展示していましたよね。

M:真珠が貝にそのままついているものですよね?ありますね。どこで買ったんですか?

坂:フランスですね。

M:へえ〜。

坂:売らずに展示していたんですよ。そこにジュエリーを乗せて展示していたんですよ。かわいかったですよ。

M:かわいいですよね。

 

真珠の秘密


M:真珠の核を入れる時っていうのは、痛いんですよ。痛いから、麻酔をかけて手術するようにして核を入れるんです。麻酔液に貝を一瞬付けて眠らせるんです。ストレスをなくすために。ストレスがあるといい真珠ができないんだと思うんですけど、麻酔をかけて、手術をして核をいれて、また海に戻すんです。

坂:天然の真珠っていうのはたくさんあるんですか?

M:全然ないですね。あってもあんまり綺麗じゃないらしい。

P:こういう(バロックパールのような)いびつな形だから自然のパールというわけではないんですね。

坂:天然と養殖の違いというのは傍目にみてわかるものですか?

M:天然は人が育てていないものなので。わからないと思いますね。あまり見たことがないですね。昔はあったのかなあ、海人さんが拾ってきた時とかね。養殖はミキモトさんが開発してから真珠のジュエリーが発達したので、あったとしても珍しいし、そんなに綺麗なものではないですね。

 

 

 

デザインのインスピレーション


P:独創的なデザインのピアスなどは、真珠を見てからインスピレーションで作られるんでしょうか?

M:そうですそうです。真珠を見てデザインを決めています。やっぱり、そうやって作ったデザインは他のパールに当てはめても合わないですね。だから創作のインスピレーション自体が真珠の形だったり、グラフィックだったり。

 

 

 

真珠の買い付け


坂:真珠の買い付けのタイミングっていうのは日本に帰ってきた時ですか?

M:そうです。イギリスからもメールで写真を送ってもらって決めたりします。

坂:どのぐらいの量をストックされるんですか?

M:少ない量で色々なものを買いますね。円になってるものを5本とか、様々な状態のものをバラバラに少しずつ買います。

坂:真珠の相場ってあるんですか?変動ですか?

M:変動です。今めっちゃ上がってます。世の中の景気にもよるし、中国で流行があったりしても上がりますし。今はコロナで養殖場が閉鎖して辞めるから希少価値が上がったり。結構投資で買う人もいるみたいですね。

坂:コロナでなんで養殖場を閉鎖するんですかね?

M:多分売れないからじゃないですか?世界のトレードショーが無くなってみんな買いにいかないから。そもそも真珠を作ること自体にすごくコストがかかるんですよ。昔は高価だったけど、価格がそこそこになってしまってからは採算があまり合わないし、手が掛かるんですね。あとは貝の大量死などもありますね。最近多いんです。何が理由かはわからないんですけど。みなさん養殖するために赤ちゃん貝を仕入れるんですけど、その貝は政府がマネジメントしているらしいので、微妙に詳細がわからないんですよね。

 

真珠について


坂:真珠の色の違いは貝の違いなんでしたっけ?種類というか。

M:貝の種類ですね。黒蝶貝、白蝶貝とか。黒蝶貝は貝が大きいから真珠も大きい。だんだん真珠の解説みたいになってきましたね。笑

 

 

P:PHAETONのお客様も勉強熱心な方が多いので、こういうお話は大歓迎です。笑

M:そうですよね、知りたいですよね。高価なものも多いですしね。パールはグレードがないから、こういう説明はある意味重要かもしれないですね。

P:てっきりグレードはあるものかと思っていました。

M:あったらもっと分かり易くこれが良い物、とか言えるんですけどね。そういう意味では真珠は知らない人にはすぐは分からないですよね。感覚的なところが多いですし。目利きが重要ですね。

P:そういった意味では、手にする人が自分で納得いく価値観を見出せるから、気持ちも上がりますよね。

 

 

M:そうですね。自分がこの真珠のオーナーなんだって、この真珠を持てるんだって。それもいいですよね。天然の物を持てるっていう。

P:全部一点ものですものね。

M:何百年と使えますし。

P:真珠そのものは経年で朽ちたりとかしないんでしょうか?

M:少し経年で変わりますが、気になる程の変化はありません。よほど酷いあつかいをしない限りは大丈夫ですね。

また多少の変化も味になりますし。ある程度磨くこともできます。

 

真珠を身に纏うということ


M:私は普段作業をしている時が多いので、ジーンズにTシャツといった服装の時が多いんですよ、それでも、真珠を身につけていてもそこだけ浮いたりしない。お母さんの真珠を借りてきた、みたいにならないようなデザインをしています。真珠ってやっぱり見た瞬間にパッとわかる存在感があるので、ちょっとやぼったいデザインだと居心地が悪いから。

 

 

P:やっぱり印象として、昭和の女性がプレゼントされた真珠のネックレスを大切にずっと持っているイメージとか、冠婚葬祭に女性が身につけているようなイメージがありますし。

M:そうそう、それを大事にしまっていてラフな格好の時には身につけていかないみたいな人が多いけど、私は身につけて欲しいと思っていて。

P:マリコさんのジュエリーの印象は全く違いました。

M:だから結構私のデザイナー友達にも、「これ真珠なの?え、これも?」みたいな感じで聞かれますね。「真珠に見えない」って反応も面白いですね。やっぱりこういうのは他にはないじゃないですか。ダイヤとかのような鉱物のものにも代わりになるようなものは無いですし。

 

 

生命力があって、ありのままでも綺麗。デザインもそれを邪魔しないように、かつもっと可愛くなるようにという思いで作っています。真珠はどんな角度からみても違う良さがあるので、結構奇抜なことをやっても逆に面白くなるんです。

これからもパールを活かすためにもっと斬新なこともやっていきたいな、と思っています。