créa-pâ HIROKO TANAKA

Interview  créa-pâ HIROKO TANAKA

 

2017. 10/28sat・29sun
TEA WORKSHOP &DESSERT PARTY Vol.3
美味しい紅茶とお菓子の時間

 

Q.

まずは、田中さんの自己紹介をお願いしてもよいでしょうか。


A.

自己紹介ですか?


Q.

はい。定型の紹介文だけでは見えない部分、つまり実際にお会いした時の印象が、自己紹介していただくことで田中さんのお人柄がもっと伝わるのではないかと思いまして。


A.

そうなんですね。私の自己紹介は・・

私は高校生の時に藤野真紀子先生のお菓子の本に出会って、お菓子の道へ行こうと決めて進んできました。で、運良く22歳の時に藤野先生のアシスタントになって。藤野先生のアシスタントになるって夢を15歳の時に自分で決めたんです。それは、高校生の時にたまたま見たお菓子の本がきっかけです。

その夢を叶えるために、どうしたらいいのかなと思って製菓学校に行ったりして、それで運良く22歳の時に叶って、それで6年間、藤野真紀子先生のアシスタントを勤めました。そのあとは自分で課した修行っていうか、フランスで一度働いてみたかったという思いもあったので、フランスで働いて、そこがたまたまジャムで有名なお店だったということもあり、今はフランス菓子とジャムのお仕事をさせていただいています。

「créa-pâ|クレアパ」っていうのは、「生地をクリエイションする」っていう意味で、「créa」はクリエイションという意味で、「pâ」はパティスリーのパとか、パットのパ。パットっていうのは生地っていう意味なんですけど、それを「pâ」と短く切って、屋号にしています。

 

福岡の中村調理師専門学校・製菓技術科を卒業後、横浜の洋菓子店に勤務、
食育料理研究家である藤野真紀子氏に6年間師事した後、2006年にフランスに渡り、パリ「L’ECOLE LENÔTRE(レコール・ルノートル)」「LE CORDON BLEU PARIS(ル・コルドン・ブルーパリ校)」プロ向け製菓学校「ECOLE GASTRONOMIQUE BELLOUET CONSEIL DE PARIS(エコール・ガストロノミック・ベルエ・コンセイユ)」で研修。その後、アルザス地方にある「MAISON FERBER(メゾン・フェルベール)」にて、ジャムの妖精とも呼ばれ、世界中で注目されている CHRISTINE FERBER(クリスティーヌ・フェルベール氏)のもと1年間働き、アルザス地方伝統の菓子や料理、ジャムづくりを学ぶ。
帰国後は、東京と福岡にてお菓子 の教室、出張お菓子教室を開催。
フルーツケーキの通販、その他雑誌、書籍の撮影に活躍中。

 


Q.

生地というのはお菓子の生地のことですよね。


A.

そうですね、私にとってはそうです。
パスタなどの生地もそうなんですけど、
私にとってはお菓子の生地です。


Q.

ありがとうございます。
藤野先生のお菓子の本に出会う前から
お菓子の世界に行きたいという
思いはあったんでしょうか?


A.

私の家は、母がお料理がそんなに得意なタイプではなかったので、その反面で「食べたいものは自分で作る」っていう子どもで。グラタンを食べたいと思ったら自分で作ってみたり、ケーキを食べたいって思ったら自分で作ったみたり、ということを自然としていた子どもだったので、それでまあ、なんとなく好きになったのかなあ、と思います。


Q.

特にお菓子が、ということでもなく
料理全般をもともとやって
いらっしゃったということですね。


A.

でも決定的な衝撃は、やっぱり「藤野先生のお菓子の本を見た」、見てしまったというか(笑)。それで、このお菓子の世界に夢を見た。将来仕事にしたいなと思ったんですね。


Q.

ものすごいスピードですね。
15歳から22歳までで
夢が叶ったんですね。


A.

そうですね。
予定では28歳ぐらいで
夢が叶う予定が、
ちょっと人生5年ぐらい
前倒しになって(笑)。

Q.

28歳でもほとんどの人は
夢を叶えようと思っても
実現できないですよね。


A.

すごく私は
人に恵まれているなと思います。
今もそう思います。とっても。


Q.

目標を15歳の時点で
明確に決定されていること
自体がすごいです。


Q.

強い気持ち、20代だとお菓子屋さんに勤めたりもしましたし、途中でお菓子が嫌になってやめようと思ったことももちろんあるんですけど、やっぱり若い時って、他の世界が美しく見えるじゃないですか。例えばですけど、洋服の世界がいいなとか、美容の世界がいいかもしれないなんていう若い時もあったんですけど、でもやっぱりお菓子だなって思って。また戻って。


Q.

田中さんは多趣味だから
多方面に興味を持たれたんでしょうか?


Q.

周りが結構、会社員というより、みんな絵を描いたり、服を作ったり、そんな人が、友達にも恵まれていたので、なんかこう、会社に勤めるっていう発想があんまりなかったですね。多趣味というか「趣味と仕事は別」で、私にとってお菓子は仕事。仕事として、夢がこうあったという感じですかね。なので趣味でお菓子を作りたいとか、そういうことを考えたことがあんまりないです。


Q.

途中でほかの世界を見たりした時に、
仕事と趣味の境界線が曖昧に
なったりなどはなかったんでしょうか。


Q.

多分10代の頃にすごくお菓子の本ばっかり読んでいたし、あとはそういうお菓子の世界で成功しているシェフの話だとか・・何かそういう料理とかお菓子に関するような本、もしくはその世界で成功している方の本とか、そういうのばっかり読んでいたからですかね。ふふふ(笑)。


Q.

なるほど(笑)。


A.

だからこう、
突き詰めてしまったという感じで。
趣味でお菓子をっていうことは
あんまり考えなかったですね。


Q.

その精神性でいうと、
道を極める人のそれに近いですね。
職人的な。


A.

そうですね。
世の中色んな職業があるけれども、
私はお菓子の世界に魅了されていて、
今に至っています。

お菓子に「極めた」という
瞬間はありますか?

Q.

素人考えの質問なのですが、お菓子を作っていて、「このお菓子は完成した」とか、「このお菓子はこうあるべき」といったような「極めた」と思うような瞬間というのはあるのでしょうか。


A.

ん〜、私はまず私のお菓子作りで大事にしていることは、例えシンプルなお菓子でも、今日のガトーショコラとか林檎のお菓子でも「シンプルなんだけれども、何か人にハッとしてほしい」。驚きだったりとか。ちょっとビックリしてほしい。そういう「ハッとするお菓子」でありたいということと、あと「佇まいは凛としている」こと、を目指しています。

なので、自分でもハッとする食感とか、香りの組み合わせとか、ま見た目もそうですけど、見た目より、やっぱりこう食感・味ですね。ハッとするものが出来た時は嬉しいですね。


Q.

完成形があるというよりも、
進化し続けていく感じですね。


A.

今日のガトーショコラにしろ、林檎のケーキも、長年作っています。

これは私の師匠の藤野真紀子先生のレシピではあるんですけど、その同じレシピでも焼く人が変われば味が変わるように、私も自分ひとりで焼いているんですけど、すごく「微調整」しています。

林檎の厚みとか、キャラメルの溶かし方とか、生地の空気の含み方ひとつをとっても。なので一つのケーキの中に、たくさんの「微調整」があって、それが年月と共に、厚みを増して、完成していっているのかなと、最近思います。

 


Q.

そこが一番ほかと
差別化されるところですよね。


A.

そうですね。
なので、自分の中で少しずつ、
理想に近づけていく、
っていう感じです。


Q.

ありがとうございます

 

 

 

「ここを見てほしい」という
ポイントはありますか?

 

Q.

テテリアの大西さんのインタビュー中で「紅茶の赤を見てほしい」というお話がありました。田中さんにとってお菓子で「ここを見てほしい」というところもあったりするんでしょうか。


A.

鮮度かなあ。


Q.

鮮度ですか?


A.

やっぱり焼きたて、お客様の口に入るまでの。やっぱり世の中で買えるお菓子っていうのは作ってからお客様の口に入るまでの時間で、段々劣化していくんですよね。なので、極力新鮮なもの、だから新鮮さをこう、見て判断して欲しい・・難しいか(笑)。

お菓子って加工しているから野菜とか魚みたいなピチっとした感じはなかなか受けられないかもしれないですけど、美味しいお菓子っていうのはフレッシュ・・フルーツを使っているとかいう意味ではなくて。


Q.

出来あがった瞬間が100%ということなんでしょうか。


A.

そうじゃないお菓子もあるんですよね。そうですね、寝かせて美味しいお菓子にしても、やっぱり美味しい間っていうのはありますよね。・・ちょっとまとまらないかな。


Q.

普通のお菓子の賞味期限ということではなくて、「そのお菓子の一番美味しい時間」を狙って食べて欲しい、ということですよね。


A.

それは作り手のわがままなのでね、
なかなかうまくいかいですけど(笑)。


Q.

だからこそ、
クレアパの田中さんの
お菓子をどうしても食べたい、
という人が絶えないわけですね。


A.

だから私が心がけているのは「お菓子屋さんじゃないお菓子」。なので、その少量生産でやっている理由っていうのは、そういう新鮮な、美味しいうちに届けたいから。やっぱり「買えないものをお届けしたい」っていうのはありますね。


Q.

食べた人にしか
わからないことですが、
本当にそうですね。


A.

買っていただいているんですけどね(笑)。
一般的に買えないものをってことですね。


Q.

普段は手に入らないということですね(笑)


A.

食べてハッとして欲しいですね。


Q.

オンラインストアも常にSOLD OUTで、
みなさん本当に次はいつ食べられるのか
楽しみに待っているわけですね。


A.

もうちょっと頑張ってね、
スタッフを増やしていっぱい
作ればいいんでしょうけどね。
ちょっと追いついていない
ところも正直ありますけど。


Q.

もしそうなった場合は、
「田中さんのお菓子」
というところから
少し離れてしまうような・・


A.

少し変わってしまうかもしれませんね。だからそれは、勇気が必要で。スタッフにある程度まかせるとか、そういう形が出てくるわけですよね。難しいですよね。なのでそうじゃない範囲で続けていきたいなと思っています。


Q.

PHAETONのイベントということで、初めてcrea-paの田中さんの
お菓子に出会ってファンになられた方も多くいらっしゃるのですが、


A.

ありがとうございます。


Q.

ご本人を目の前にして、
最高の鮮度でこのお菓子を
体験できるという
空間があることは幸せですね。


A.

今日の会(TEA WORKSHOP & DESSERT PARTY Vol.3 at PHAETON)は私にとっても特別で、いつも私はお菓子作りを教えている仕事が大半なんです。なので、大西さんのレシピと私のお菓子。お菓子のレッスンはしませんが、私にとっても新鮮な、大西さんのレクチャーを聴きながらお菓子を用意して、お客さんもすごく開放的なPHAETONの贅沢な空間でリラックスしながら楽しんでもらえますよね。


Q.

本当にこの環境で、
お菓子を一口いただくだけで、
幸せな気持ちになれます。


A.

甘いものには、リラックスさせたり、
癒す力がありますね。


Q.

最高のお菓子と
最高の紅茶がある
素晴らしい時間でした。


A.

コラボレーションの意味が、本当にあると思います。飲み物のプロの方と一緒に、こうやってお客様に召し上がっていただくということにも。


Q.

途中、大西さんとセッションのように「こういうものにはこういうものを合わせると良いよね」と盛り上がっていらっしゃるのをお見掛けしましたが、やはり何か新しい発見なども?


A.

そうですね、私は大西さんの紅茶の・・本当にセンスがいいと思います。なんというか、うまく表現できないですけど(笑)。今日も薫香の紅茶を実演されていたり。大西さんのカモミールミルクティーですとか、ハイビスカスのルビーティーとか大好きなんですけど、本当にセンスがいいなあと思うんですよ。そんな、普段はテテリアの紅茶を飲みながらも感じつつ、今日がある。さらに何か発見というか驚きがありました。

 

今からお菓子を始めようという方へ
一言アドバイスをお願いします。

A.

一回作りたいものを作ったとしますと、たまたま上手にできる場合と、大失敗する場合、もしくはまあまあ美味しいものっていうのができることがあると思うんですが、何回か作っていただきたいですね。


Q.

全く同じものを?


A.

同じものを。そうすると、またさらのそのお菓子の良さを発見すると思うし、違う美味しさが現れてきたりもありますし。なので色んなものを作るよりも、私は同じお菓子を最低3回は作っていただいたらいいかなと思います。


Q.

なるほど、何度も作ることで
わかることがあるわけですね。

ジャムの本

 

Q.

拝読させていただきました。
本当に充実の内容で、
ジャムのことが全部
書いてあるのではないか、
と思うほどでした。


A.

「こんなに載せて良いの?」
って言われるんですよ(笑)。


Q.

あの1冊分だけで
3冊は本が出せそうです(笑)。


A.

そうそう(笑)。本当に盛りだくさんで。あの本を作るのに2年かかっているんです。とっても贅沢に仕事をさせてもらいました。教科書みたいな、1冊家にあったら、これがあればいいって思うぐらいの本を作りたかったんですよね。


Q.

その通りの本に仕上がっていました。


A.

この本は、韓国語と台湾語と、あと来年は中国語も出ます。なので、英語圏・・フランスは出ないかもしれないけど、色んな言語に訳されるというのがすごく嬉しくって。違う国で、同じいちごジャムでも違う味になるでしょうし。

ジャムの良さってフルーツと砂糖があって、あとはちょっとの酸味にレモンがあれば、できますよね。大したお道具がなくても。なので、お菓子よりも、チャレンジしやすいし、楽しめますよね。

作ってるときの香りが、家中に立ち込める感じが、なにかアロマというか、旬の香りが香ることによってリラックスしたりすると思うんです。なので、たまにジャムを作ることは、リラックス効果みたいなこともあると思います。

 

 

「ジャムの本」

PHAETONでの取り扱い分に、
記念として田中さんの直筆サインを
入れていただきました。

Q.

先ほどの話で言いますと、
ジャムを一年通して何度も
作ることでも意味がありそうですね。


A.

そうですね。毎年いちごジャムしか作らない、っていうのもすごく素敵なことだと思いますし。フルーツが主体ですから、毎年同じものができるとも限らないですしね。


Q.

人気の栗ジャムも全てご自身で仕込まれているのでしょうか。


A.

私の大好きな栗農家さんから、購入させていただいて、それを自分でゆでて、剥いていきます。これも全部ジャムの本に載っています。配合も全く同じです。何も隠し事ないので(笑)。

でも、1kgから600gしかとれないんですよ。だからすごく大変ですね。たくさん剥いても減っちゃうから。大変なんですけど、みなさんの・・

私、ジャムを100種類以上作っているんですが、一番人気です。だから栗ジャムは「みなさんのリクエストに応えよう!」って気持ちで、今年も100kg分は作りました。


Q.

すごい量ですね!
しかしこれもまた、
あっと言う間に無くなるんでしょうね。