ACCALMIE Laurent STEPHAN

 

 

ACCALMIE × MR.DEEP POCKET


ACCALMIE Laurent STEPHAN
Interview

 

 

職人として


パリで10年間ファッションフォトグラフィーの世界で現像士、コンピューターグラフィックデザイナーとして多くの著名フォトグラファーと仕事したのち、アルティザンとしての情熱の矛先を革とバッグの製作に向け、パリ6区にある職業技術取得学校 グレゴアー フェランディ(現在の名称はラ ファ ブリック)の、セリエ-マロキネリ課で学ぶ。セリエとは、英語で SADDLER(馬具職人)マロキネリは英語で LEARTHER WORKER(革職人)の事で、学校の講師はエルメスの現役の職人が招かれていた。その学校の卒業と同時に、メゾンエルメスに入社。わずかな求人の中で、さらにただひとり、高級皮革の裁断のアトリエ部門の入社を果たす。当時、クロコダイル、レザード、オーストリッチなどの高級皮革を用いたエルメスのすべてバッグの裁断を担当。その後、高級皮革のバイヤーのポストを兼任し、8年間メゾンエルメスの中心部に身をおいたのちクリエーションへの意欲が高まりエルメスを退社。2017年2月パリから東京に移住。本格的に活動を開始する。

 

CONCEPT


納得のいく本当に良いと思える素材を用い、丹念に一点一点仕上げる事が基本。すべての商品は、ステファン ロランによって、裁断、縫製、磨きまですべてが手作業、全工程を手縫いで行う。革選び、デザインもすべて本人による。見えない部分にも天然の素材以外は用いません。基本は、革と麻糸のみです。革は現在、エルメスと取引するトップクラスのクオリティーの日本でなめされたクロコダイルを中心に、子牛革は、天然の(型押し加工などが施されていない)そしてベジタブルタンニングのイタリア製の革を使用。コバ磨きの仕上げには、ゴムアラビック(アカシア樹脂)を使用。これは伝統的なベジタブルタンニングの素材を仕上げる馬具職人のテクニックで、この手間のかかる仕上げをする人は少なくなってきている。麻の糸はフランス製のクオリティーの高かった40年時代のデットストックを使用。金具類は最低限にしか使用しません(ジップなど) 使う事で磨かれ、美しく古びていく。そんな、 使い手とともに唯一無二なものとして完成していく“ものづくり” ACCALMIEとDEEP POCKETの共作コレクション。

Q. ACCALMIE アカルミ の
ブランド名について


日本語では凪のこと。
風がおさまって波の穏やかな状態。その時訪れる静寂感が、ACCALMIE のイメージです。流行の波の間で、一筋の光のように、静かに信じたものを作り続けていきたいという気持ちをこめて命名しました。

 

 

 

Q. 今回の作品のユニークな
名称の由来を教えてください。


Dé  


フランス語でサイコロ。
角張った様子から。

GMT  ジーエムティー


旅に活躍するであろうバッグには、
グリニッジ天文台・
グリニッジ子午線(経度0度)より。

Chelan  シェロン


DEEP POCKETの名にちなんで、
アメリカの一番深い湖の名前を。


Acoma  
アコマ


ニューメキシコ州の
プエブロ・インディアンの
集落であり民族の名前から。
ネイティブ・アメリカンが
持っているバッグのイメージ。

MR. DP  ミスターディープポケット


MR. DEEP POCKET。
今回のコラボレーションを
代表するモデルとして。

 

Q. クロコダイルの魅力、
なぜクロコダイルなのでしょうか。


クロコダイルの柄は生き物なので、1つとして同じものがなく、全てが1点ものとして存在しています。面白いことに、クロコダイルは紀元前から存在しており進化しておらず、「自然」としての魅力があります。

 

Q. 世界一のクロコダイルレザーを使った
ロランさんの鞄の特徴を教えてください。


一番の特徴は、全てのステッチをひと針ずつ自分で縫う、ということです。そして全てがごく僅かしか作れないということ、セリエの馬具職人の技を尊重した上でのテクニックをひと針ひと針凝らしたエレガントで伝統的な仕上がりです。

モード系のものをやっているつもりは全くないので、
美しく、そして使い勝手がよく、革(クロコダイル)を余すところなくきっちり有効に使いきれるように裁断しアイテムごとに最適なサイズ幅になるようにクロコダイルを選定しています。

1点ごとに表情が異なるので、革の見せ場が異なるのです。センターで使うところ以外の裁ち落とした残りの革は、ハンドルは紐の部分などの各パーツに振り分けられます。

カードケースなどは、ポケットの重なるパーツごとに厚みを調整し、1枚毎にレザーの加工現場でコンマミリ単位で指示をしながら確認し誰に任せることなく全て自分の目で見てコントロールした品質で制作しています。

 

Q.クロコダイルレザーの
特性について教えてください。


クロコダイルの革は非常に丈夫です。お手入れも数年に一度汚れを落とすために拭き上げる程度で十分に維持できる素材です。また、カーフスキンと違い、万が一傷がついたとしても傷を埋めたり色を入れたりせずにいずれ角がとれ丸く馴染んでくるので、そのままお使いいただくことで、あじわいとして末永く使っていただけます。

 

Q. 糸のこだわり/
道具のこだわりについて


 

化繊は一切使うことはありません。またコットンだと耐久性が不足します。そのため、私は麻糸しか使いません。6本の糸を1本に撚ってある革の手縫い用の専用の麻糸が最適なのです。

 

かつてはフランスやオランダ製の現行の糸を使用していましたが、偶然1940年代のフランス製の適度な光沢と耐久性のある糸に出会い、各地に眠っていたそのメーカーのデッドストックを探し回り、可能な限り買い集めました。すでにこのメーカーは消滅しているため、アトリエにストックしているこの糸が無くなった時、妥協せざるを得ない状況になるかもしれません。その時は新しい糸に切り替える必要がありますが、これを上回る糸にはまだ出会っていません。

 

道具はフランスのセリエが使う伝統的な馬具職人の道具屋さんにオーダーして全て揃えており、15年以上ずっと同じものを使用しています。道具のケースは手の空いたときに自分で作っていました。

 

 

Q. レザーの目打ち穴すら美しいですね。
これは専用の道具なのでしょうか?


道具もアメリカとイギリスで異なりますが、伝統的な技法に則ってフランスのものを使い続けています。グリフをよく見てみてください。アメリカの道具はいわゆる「菱目打ち」、菱形の形状の穴ができるような先端の形状になっています。私の使っている道具は「/」形状の穴です。よく見るアメリカ製のグリフは「♦」のような穴になっています。

グリフは8種類の間隔が違うものを使い分け、ポジションにより異なる道具に変えて打っていきます。私の道具にも糸が通りにくい時に穴を拡張するための菱目に近いものがありますが、こちらは完全な菱目のようにエッジが尖っていない形状になっているので、糸を通した後、自然な形状に戻ります。

 

Q. 日本に来て仕事に対しての
向き合い方は変わりましたか?


もともとのビジョンはあって、それは日本に来ても変わりません。今もその目標としているビジョンに向かって進んでいます。

日本に来て、素材を探すことは難しかったのですが、以前と違い、全て自分が納得した素材を一つ一つ探して使うことができるようになったので、今もの作りを続けることができています。

 

Q. 日本での素材探しの難しさとは?


フランスにいる時は、アルザスなどタンナーがいくつも近場にあったため、素材を探す時には、自分で足を運び、その場で良いものを選定することが容易でした。それが日本ではタンナーが少なく、私の求めるタイプのレザーのバリエーションが少ないため、同じようにできないという意味での難しさがあります。

Q. メーカーのレザーサンプルから選んで注文、というわけにはいかないのですね。


そういうことです。均質なものは科学的な素材で染め上げているので、ブレないのです。また、日本にもテクニックを凝らした研究されたレザーが沢山あるのですが、どちらも自分が必要としているものと方向性が違うため、使用するレザーの品質を下げずに選んでいくと、日本で手に入るレザーのバリエーションが少ないという現状はあります。

アメリカのクラフトに好まれるようなタイプのレザーの種類は多いのですが、断面が全てオイルが染みているようなタイプの上質なレザーは見つけることが難しいですね。特に鞄の内側に使うカーフスキンの種類が日本国内では少ないため、良いものを探し当てるには時間がかかります。

 

Q. ロランさん自身で選定している世界一と言われるクロコダイルレザーはどのようにして品質を維持しているのでしょうか?


まず海外で上質なクロコダイルを選定し、持ち帰ってから日本国内のタンナーで染め上げています。日本国内で腕の良いタンナーに出会えたことは幸運でしたね。

 

 

Q. 鞄ごとに最適なクロコダイルレザーを選定されているとのことですが、どのような基準で選定されているのでしょうか?


まず、クロコダイルレザーの美しい部分、鞄に使える部分というのは決まっています。腹のこの部分、ここが主役になります。そして、美しい部分だけを有効に、余すところなく鞄のデザインに落とし込むには、それぞれのサイズにあったクロコダイルが必要なのです。カードケースであれば、カードケースの幅に合わせた小さいレザーを、鞄であれば、鞄にした時に一番美しく見えるサイズのレザーが必要です。クロコダイルに、自然の偉大さに敬意を持って、無駄の無いよう、最大限に美しく見える形でレザーを加工します。

そして、手足やテールの部分では鞄本体に使えない部分があります。その部分の革はベルトやハンドルの部分に活用しています。全ての素材を有効に使用することをポリシーとしています。

 

 

Q. ストックを持っている分しか
作ることができないのですね。


サイズごとにその時もっているクロコダイルの分だけしか作れないので、また1からレザーを選んで、仕入れて、タンナーを通すまで時間がかかります。

 

 

Q. ディスプレイのクロコダイルがユニークですね。


これは裁断して残った革見本にしか使えないようなところを使って、今回のために制作しています。楽しんでいただけて何よりです。

 

Q. ロランさんが今「美しい・素晴らしい」と感じているものはなんでしょうか?


「自然」です。

海、木、花、自然に触れること、自然の美しさを感じること、もともとは生まれ育ったところから、小さいころから自然が好きだったけれども、今はより自然の中に身を置いたりすることが幸せだし、大切だと感じるようになりました。その意識はここに来てより高まっていると思います。
歳をとった、ということかもしれませんね。(笑)

 

Q. 美しさ、ということにおいて「自然」が重要な役割を持っているのでしょうか?


そうですね、エコロジーや環境のことであったり、PHAETONのような自然豊かな場所で過ごすことであったり、無駄なく、大切に作ったものを大切に長く使ってもらえることというのは重要ですよね。

 

Q. ACCALMIE×DEEP POCKETのコラボレーションで面白かったところはどこでしょうか?



〈 坂矢 〉

「DEEP POCKET」とは金持ちを皮肉ったスラングなんですが、マフィアが金持ちをみて「あいつはディープポケットだぞ。」っていうような。世の中「レッテル」で出来上がっていると思うんです。

そのレッテルではない良いもの、本物を作りたいという考えから出来上がったものが、このコラボレーションの面白さです。

 

〈 ロランさん 〉
この取り組みはとても興味深いものでした。例えば、ロングウォレットで「最低カードが18枚入らないと嫌だ」「カードを重ねて一つのポケットに入れるのは嫌だ」とか、バッグでは「ポケットのないトートは嫌だ」とか、「ウォレットがぴったりと縦に収まるサイズじゃないと嫌だ」とか、カードケースでは「カードの背が少しずつ見えるポケットにしてほしい」など、自分の作る側のアプローチとは全く違う、使う側のこだわり。「ここはこうなっていて欲しい」という明確なこだわり、使い方のこだわり、そこを組み立てることが、とても面白かったですね。打ち合わせのたびに沢山の宿題をもらい、それを解決しながら美しく仕上げるための勉強の数々、技術面で頭の体操になりました。

〈 坂矢 〉
DEEP POCKETの名を冠したこのトートバッグで一番面白かったのは、僕は好きか嫌いかの2択しかない人間なんですが、持ち物にとっても、要るか要らないか、という2つしかないんです。ただ、それとは別にして、普段は使わないんですが、僕はアメリカのトートバッグが大好きなんです。ロランさんからすればただの美しさの欠片もない雑なバッグにしか見えないかもしれないこのバッグが大好きなんです。1920年代の石炭を運ぶための袋が原型なんですが、デザインではなくただの道具ですよね。

僕が着ているOLD JOEのジャケットもそうですが、ただの用の美ではない、というところが惹かれるところです。このジャケットも20数回作っているんです。これはもう、用の美というよりユニフォームなんですよね。

 

〈 ロランさん 〉
フランスでは「トートバッグ」という存在が無いのです。ともすると、トートバッグという単語すら知らない人がいます。あらためて見回すと坂矢さんに言われた鞄とそっくりなトートバッグを日本では誰もが持っている。私にとっては、「一体これはどうしてなんだ」というところから今回の取組が始まっています。
キャンバス地とクロコダイルレザーという組み合わせも見たことがなく、坂矢さんのお話を聞いてすごく勉強になったというか、面白かったですね。

 

Q. 今回の展示に在廊していただき、いかがだったでしょうか?


自分の世界感から、全く違うところに飛び込むことは刺激的でした。手探りに近い状態から始めて、着地点が見えない状態だったところから最終的に同じ境地に立てたことで、満足度の高いコラボレーションをいただいたなと思います。

この全体的な空間や、坂矢さんの作り上げた世界観、またそれを理解したお客様の方たちの中で今回の展示ができたことはとても良い経験でした。PHAETONのラインナップの中にこの作品たちが並んだことがとても嬉しいです。

 

 

ACCALMIE × MR. DEEP POCKET
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