1)国境を越えたものづくり
ニューヨーク発でありながら、台湾の職人の顔が見える。
そして靴を見れば、その良さがわかる。
その真摯な姿勢はどこから来るのでしょうか。
Tull
はじめて靴の仕事を始めたのは、1996年で、20歳の時だった。その頃は、もっとアスレチックな靴を作っていたよ。その当時から、より良いモノづくり、より良い作り手、より良い素材を探して、世界中を旅してまわったよ。はじめに、アスレチックシューズを勉強し、ドレスシューズ、レディースシューズを学び、いろいろな国で、たくさんの場所で靴を作って来た。そうして、ロックのモノづくりに出会うことができたんだ。そして、それが最良の技術であると確信しているんだ。私が思うに、“モノづくり”とは、つくられる国や、場所ではなく、どのような技術によってつくられるかということだと思うんだ。 今、本当のハンドメイドでモノづくりをしているところは、とても少ないんだ。それを求めて行った結果として、ロックの下で、より深い作り込みをすることができるようになったんだ。
2)素材へのこだわり
アッパーが一枚革であることで美しさとともに素材が際立ちます。
レザー、ベジタブルタンニン、コルク、竹。
特にこだわっている素材、
もしくはこだわるべき視点とはどこにあるのでしょうか。
Tull
私は、常に自分自身に、どうしたらもっと良いものがつくれるのかを問い正しているんだ。そして、問い正すたび、その答えは、いつも自然の中、人の中にあると思うんだ。最良のモノづくりを目指す事というのは、この製品は、自分達の手で作る、という事だと思うんだ。革は呼吸し、エイジングもするし、人の肌にも合う。人の手によってつくられたものは、使い手が知らなくても、温かみを感じる事が出来るんだ。今日、私達が手にする物のほとんどは、機械によってつくられている。機械によってつくられた製品には、個性はなく、一つ一つ違いもない。でも、天然の素材を使って、人の手によってつくられたものは、一番いいものだし、使う事を楽しむ事が出来るし、それに、環境にも優しい、そう信じている。
3)最高のベンチメイド/全て手縫いのこだわり
熟練の職人によるハンドグッドイヤーウェルト。
全てが職人の手作業によって形成されます。
その工程を目の当たりにすることで、
より良い靴と人との関係性を構築できるように思えます。
継続可能な素材と同様、継承可能な技術として
ベンチメイドという形を採用されているのでしょうか。
Tull
どのようにして靴が作られているのか、という質問に対して、ロックはどうすればよく出来るのかを本当によく知っているよ。 だから、一緒に働こうと思ったし。チームを組んだんだ。 よかったら、彼にも聞いてごらんよ。
Rock
良い天然素材を使ってモノづくりをするには、良い作り手が必要になる。 マシンでモノづくりをすることも出来るが、その為には、化学的に作られた素材が必要になる。 天然素材と合成素材には、大きな違いがある。
動物は、我々人間と同じく、それぞれ個性がある。年齢に関係なく、彼(Tull)と私の肌が違うように、差がある。部位によっても革の質が違ってくる。 我々は、マシンでシューズを作ろうとしたこともあったが、その為には大量のピグメントで、革を定着させる必要があった。
何故なら、彼(Tull)のつくる靴は、全てワンピース、一枚革だからだ。一枚革で靴をつくることは、我々にとっても、非常に困難なことだった。一枚一枚性格の違う革を扱う為、同じ型の靴でも、革をつり込む方向が、一つ一つ違って来る。そうしないと、革にシワが寄ってしまうのだ。
シンプルにいうと、マスプロダクションには、人口の素材が共存していて、一貫した品質が大量生産には求められてくる。だけど、天然素材は一点一点違っている。それは、本物だからだし、生きていたからなんだ。ハンドメイドと天然素材は、ともに席を並べる事ができて、マスプロダクションと合成素材は共生している。私達は、後者を選び、ハンドメイドで天然素材を使うことにしたんだ。
4)近代化と逆行するものづくり
いま敢えて工業化を捨て去り、
アナログな作り方にすることで
見えてきたことはあるでしょうか?
Tull
はじめたばかりの頃は、もっと大量生産のやり方でやっていたんだ。でも、最後にわかったんだ。「工業化」や「マスプロダクション」が求めているものというのは、ほとんどの時間を管理することに費やし、お金のことを心配しながら、これがいくらで、あれは幾らするのか、どうやったらもっと安くつくる事が出来るのか、どうしたらもっと早くつくる事が出来るのかという事を考えるという事なんだ。
でも、私は、製品のことを考えたり、素材を選んだり、どうやってつくるかとか、モノづくりについて、人と話をすることに、時間を使いたいと思ったんだ。 私達は、人を管理することや、お金を貯めることを考えるよりも、どうやって製品を作るか、人生を楽しむか、いい人たちに出会ったりすることを考えるほうが、豊かな生活だと思うんだ。
ロックは、たくさん電話をかけてこられるのがキライなんだけど、でも、一緒に過ごしていこうって決めてくれたんだ。
Rock
思うに、昨今、世界中で言われている「エコ・フレンドリー」というのは、大きなジョークだと思う。「リサイクル」でさえも、正しいことではない。
時々、どうして革を使うのか?と聞かれる事がある。
逆に私は、あなたは牛肉を食べますか?皮を食べますか?と聞きたい。
答えは明白だ。だから、牛を殺す時に、皮を捨ててしまうんだ。我々は、それを引き取り、新しい命を吹き込んでいるんだ。家具などと同じで、革は、合成皮革よりも、ずうっと永く使う事ができる。だから革を使っている。
でも、もしいつか、誰も牛肉を食べなくなったら、多分我々も変わるだろう。
誰も牛肉を食べなくなったら、皮はゴミ箱に捨てて、ハエがわいたり、環境を汚したり、世界一素敵な匂いを嗅ぐ事が出来るようになるだろう。
Tull
彼の言いたいことを訳すと、「リサイクル」がコンセプトの製品も工業化されたものだし、最後にはゴミになってしまいます。私達が何故、天然素材を使うのかというのは、人は牛肉を食べて、皮はその残りだからです。捨てられてしまう、その皮を使って、つくっているんだ。
じゃあ、動物についてどう思うのかと言われると、もしいつか他にもっと良い解決策があったり、人が牛肉を食べなくなったら、私達も、靴を作るのをやめるかもしれないね。でも今はまだ食べられているから、その皮を使って美しいプロダクトを作ろうと思うよ。そういった意味では、革はプラスチックや、合成素材よりも、継続可能な素材であると言えるだろう?今日、身の回りのものほとんどが、プラスチックや合成素材でできていて、それらは、分解する事ができないから、地上を埋め尽くしてしまうか、海に捨てられてしまうしかないんだ。それって、動物を食べて、その皮を製品にすることよりも、よっぽど重大な問題だと思うんだ。
5)FEITという名前の由来を教えてください
単語を調べるとオランダ語で
事実・真実(じじつ・しんじつ)と出てきますが、
確信を付く意味のようにも見えます。
Tull
オランダ語で「真実」という意味なのは、偶然だよ。 Feitは「もがく」とか「努力する」という意味を込めたんだ。この名前を考えたときは、大きな会社に勤めていたんだけど、自分で小さな会社を始める時につけた名前で、「できるだけ良いものを作るために努力をしよう」と、つけた名前なんだ。マスプロダクトの道を辿るのではなくて、その脇の小道を進んで行こうってね。
6)BAMBOO
ソールに採用された竹が目を引きますが、
竹に新たな可能性を見出したのでしょうか?
Rock
竹というのは、自然素材の中でも特に優秀なもので、中国ではとても人気のある素材だ。 竹は春に育ち始めて、1日に1フィート以上成長することもある。とても早く育つ植物なのだ。しかし竹は、切ってしまわなくても、一年後ぐらいには、自然に乾燥してくれる。1つの株から、まっすぐ伸びるものや、斜めに生えていくものもある。樹木は、腕と同じ太さになるまで、5〜10年かかる。だが、竹の場合は、5ヶ月で成長する。そして切らなくても、自然に乾燥してくれる。 だから、竹は、とても強い素材なのだ。 中国では、竹で多くの美術品を作っているし、家具なども作っている。
Tull
そうなんだ。家具を作ったりしているよね。 竹は世界で一番強い素材の一つで、多くの国で家具を作ることに使われたりしている。 そして継続可能な素材でもあるんだ。 ロックが説明したように、成長が早いし、すぐに使えるし、切って地面に挿すだけで、そこからまた生えてくる。とても耐久性が高い素材なんだ。
靴のシャンクに使うには、もってこいの素材なんだ。 随分昔は、シャンクに使われていたんだけど、工業化が進むにつれて、プラスチックや金属に取って代わられてしまったんだ。 私達は、すべて天然素材を使って作っているから、竹は私達にとって、完璧な素材なんだ。 継続供給が可能だし、成長が早い、耐久性が強いから、靴の構造を支える事ができる。さらにしなやかさを持ち合わせているんだ。
7)何かみんなに伝えたい事はありますか?
Tull
もう一緒に働き始めて何年になるんだっけ? 12年くらいだっけ? この男は、一緒に働くのが、とても大変な男なんだけど。でも、、でもね。世界で一番の靴を作るんだ。
私はそう信じている。私達は、世界で唯一の、一番のプロダクトを作っているんだ! 誰にでも出来ることではないのだけれど、新進の工業化された技術を身に付ける事、これはこれで一つの技能だと思う。
ものづくりの深淵や、私の信じる完全性という意味においては、一緒に作り上げていると信じているんだ。 時々、馬鹿みたいに夢中になったりもするけどね。 どう思う?
Rock
うん。 いや、本当に喧嘩したりもする。 ただの言い合いとかじゃなくて、本当のファイトだ。 彼には、彼のアイデアがあるのだけれど、私は私で、どうやって靴を作るのか考えないといけない。 ときどき彼のことを、愚かなデザイナーなんて、からかったりするのだが、それは彼がワンピースレザーのシューズを作るからだ。
私は、それをどうやって、反りを作ったり、型を出したりするのか考えないといけない。彼は、どんな型でも、どんな素材でもできると思っているのだ。 豚肉を渡されて、牛肉の料理を作れと言われているようなものなのだ!! 無理なのだ!! 豚肉は豚肉なのだよ!! 魚や鶏肉にする事はできないのだよ!!
彼はデザイナーだから、突拍子もないことを考えるのだが、ぶっ飛び過ぎていて、私の頭をおかしくする時もあるのだ。 しかも、2、3秒で考えを変えたりもするのだ! 私がトイレに行って戻ってくると、もう考えが変わっている事もあるのだ!!
Tull
うん。ある、ある。時々ね。 私達は、芸術の域に達したものを目指していきたいんだ。他にないもの。特別なものを。 それは挑戦でありながら、楽しんでやっていく事もできると思っているよ。
8) PHAETONとのイベントについて
Tull
私達はいつも、一緒に協業していく人達を探しているのだけれど、 私たちと同じビジョンを持って、良質の素材を使って作られた質の高いプロダクトを理解してくれる人というのは、世界にもそんなに多くいる訳では無くて。 けれども、少しづつだけど、増えてはきているんだと思う。
私もロックも、PHAETONとLetoに来て、知ることができて、とても幸運だと思っている。 それは、どちらのお店も、私たちの製品を一緒において貰いたいと思うプロダクトを扱っていて、そして、こうしたプロダクト、私たちのやっている事に対して、理解のある顧客の方に支えられているからだと思う。
私が思うに、それは類い稀なことなのだと思う。 だから、PHAETONの皆さんと一緒に働くことができて、とても嬉しいです!
FEIT INTERVIEW -1/3
FEIT INTERVIEW -2/3
FEIT INTERVIEW -3/3