PHAETON FRAGRANCE LONGBAR

至高の香りを求めた男の話

18世紀のフランスに、とある男がいた。天才肌の、おぞましい男である。その種の人物が少なからず輩出したあの時代にあって、とりわけ天才肌で、この上なくおぞましい男であった。

これからその男の物語を始めよう。


名前はジャン=バティスト=・グルヌイユ。いかにもこの名前はサド侯爵や、革命家サン・ジュスト、稀代の辣腕家フーシュや、ナポレオン・ボナパルトといった同時代のフランスの天才的な怪物たちとはちがい、すっかり忘れられている。


だからといってこの男が世に聞こえた連中と較べて、尊大さや人間蔑視、また冒瀆の点で、つまりは神を恐れぬ所業において一歩ゆずったからではない。彼の天才と野心とが、ある特殊な領分に限られていたからである。しょせんはこの世に痕跡一つ残さずに消え失せるもの、すなわち香りというつかの間の王国に。





そんな冒頭から始まる『香水 ある人殺しの物語』(パトリック・ジュースキント/著 池内 紀/訳 1988年 文藝春秋)
1985年に発行されたドイツ文学で、全世界で1500万部を売上げたベストセラー小説です。

主人公は、鋭敏な嗅覚で、この世のあらゆるニオイを嗅ぎ分ける男「グルヌイユ」。なのに彼だけは何もニオイを纏っていないのです。まるで、この世に存在しないかのように。

彼の一生が淡々と綴られた物語。それは、副題にもあるように人殺しの物語です。

特徴的なのは、その「ニオイ」の表現。
思わず目を閉じてその世界に没頭したくなるような芳香から、鼻をつままずにはいられないような悪臭まで、様々な場面で、様々なニオイが綴られます。

香水の調香シーンでは、数々の芳香材料の名前が出てくるので、その香りを記憶から呼び起こしながら読むと一層楽しめることでしょう。 また、知らない香りが出てくると、どんな香りだろうと想像も膨らみ探求心がそそられます。

そして、「ニオイ」への異常なまでの執着から、殺人鬼へと変貌する主人公。彼は、究極のニオイを追い求め、ニオイを支配していくのです。


『パフューム ある人殺しの物語』(原題: Perfume: The Story of a Murderer )は、2006年にドイツ・フランス・スペインで合作映画が製作された。18世紀のパリを舞台にしたパトリック・ジュースキントの『香水 ある人殺しの物語』の映画化。日本では2007年3月3日から公開された。映倫規定ではPG-12指定となっている。




もちろん本作品はフィクションであり、ファンタジー小説です。しかし、様々な「ニオイ」たちの仕業なのか、実際にあった物語かのようにその世界にどっぷりと浸ることができます。まるで文章が香るような、何とも言えない読み心地なのです。

香りというつかの間の王国の物語は、香り好きのアナタに、ぜひ嗜んで頂きたい作品です。








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