蜂蜜、ワイン、イトスギ、ブドウ、ミルラ、エニシダ、コルムネア、ユキノシタ、サフラン、ビャクシン、カルダモン、ワセスイバ、ショウブ、、、
これらをなめらかになるまでよくすり潰し、目の細かいふるいにかけたあと、
最も香りの良い部分を取り出してすり鉢に入れ、オアシスワインを加えながらペースト状に。
古代エジプト、エドフの神殿の壁に象形文字で刻まれていた「キフィ」と呼ばれる香料のレシピです。
その時代、神殿には必ず、僧侶でもある調香師がその聖なる義務を遂行するためのラボラトリーがあり、彼らは、毎日、朝に樹脂、昼にミルラ、そして夜にはキフィという3種類の芳香を神に捧げました。
香りと人との関わり合いの始まりは、紀元前5000年ごろのメソポタミア。
人類最初の香りは、神々に捧げられた薫香と言われています。香りは、神殿全体にオーラを漂わせ、邪気を払い、心身を清める神聖なものと信じられてきました。
その後も、魔術の道具として、時に、権力の象徴や異性を誘惑する格好の道具として歴史を彩ってきた香りたち。
その伝説たちを、気高く蘇らせたのがAstier de Villatteの3部作「LES PARFUMS HISTORIQUES」です。
時代を経て、その古さ、その脆さに美しさを見出すアスティエ・ド・ヴィラットの2人とタッグを組むのは、調香界の巨匠ドミニク・ロピオン。
そして、神話、宗教、医学、哲学、心理学、文学、最新の科学に基づく多角的な視点から香りの謎へと迫る歴史学者のアニック・ル・ゲレ。
彼らの飽くなく探究心から、3つの香りを蘇らせることに成功しました。
LES PARFUMS HISTORIQUES
– 歴史に刻まれた三つの香り –
20年以上にわたり親密な関係にあったドミニク・ロピオンとアニック・ル・ゲレ。
過去の香りのフォーミュラを復元するという難題なプロジェクトを成し得るのは、この二人とて容易なことではありませんでした。
香水の各成分の処方と比率に至る的確な資料はもちろん、調香師自身が成分を探り、その割合を算出。さらに現代の基準では用いることができない原料については、代用可能な原料を見つけるという作業も加わりました。こうしてセレクトされた100%天然由来の原材料と最先端の技術。香水作りの髄を極めて完成した香りこそ「Le Dieu Bleu」「Artaban」「Les Nuit」なのです。
太古の昔から、肯定的にしろ否定的にしろ、私たち人間は本能的に“香り”に関心を寄せてきたことは、数多くの歴史的記述に“香り”の要素が登場する点でも明らかです。また、人間より優れた嗅覚を持つ動物たちにとって“香り”は生存や種の存続に大きな意味を持っています。
現代人にとって香水は、神聖なものとしてでも、衛生上の理由から使われるわけでもありません。また、生殖のためでもありません。私たちが、香水を愛し、毎日のように使用し、日々様々な香水が発表されるのは、香水が嗅覚を通して「美しさ」を感じさせてくれる芸術だから。
そして、どの時代の人々も、きっと同じように「美しさ」に浸っていたのでしょう。
絵画や彫刻は視覚、音楽は聴覚。
古い作品たちから「美しさ」を享受できるものは数多くあります。
中でも、人々を逃れられなくする魔力が一番あるのが嗅覚を開く“香り”なのではないでしょうか?
現代に蘇るいにしえの美しい香りに浸るということ。
時を遡るようなトリップの感覚を、ぜひ肌の上でお愉しみください。
参考資料
・匂いの魔力 工作舎 アニック・ル・ゲレ 著 / 小泉敦子 訳